
鶏肉はスパイスの香りとレモンの酸味で夏らしくさっぱりした味わいに仕上げました。アボカドにはミントで清涼感を、ナスは焼くことで香ばしさを出し、メインとガルニで味にメリハリがある一皿です。
今回のレシピは鶏肉の代わりにラムでもスパイスとのバランスが良いのでおすすめです。

スパイス全般ですが、トーストする、加熱することで一段と香りが立ち込めます。この香りがスパイスにとって一番の魅力だと思いますので、ぜひ一度炒ったりして香りをしっかりと立たせて使用してみてください。

ブラックペッパーは肉全般で使用していますが、加えてパストラミにはコリアンダーも使っています。オマールエビのソースにはフェヌグリークやカルダモンを、シュリンプソテーのソースにはサフランを使います。

スパイスからしか出ない豊潤な香りと、食材と合わせた時に生まれる魅力的なマリアージュです。食材だけでは物足りない、もうひとアクセント欲しい時に必ず使用しています。

アメリカでは家庭でも「チリパウダー」をよく使いますが、日本ではミックススパイスだということを知らない人が意外と多い。カエンペッパーと同じだと思われていたり、辛いスパイスと誤解されている。実は風味づけとして使い勝手のいい、女性に好まれる味のスパイスです。
※チリパウダーはカエンペッパー、オレガノ、クミン、ガーリック、塩などを混合したスパイスです。

僕の最初の料理の先生は母です。料理上手な母を手本に、小学生のころからぬか床を混ぜたり、鰹節から出汁を取って味噌汁を作ったりしていましたね。
ニューヨークのインターンシップ時代に、「Jean-Georges」でアスパラガスの仕込みをしているところを見込まれて、最終的にはスーシェフにまでなることができた。日本で修業していたイタリアンで、春になると大量のアスパラの皮むきをしていたから得意だったんです。日本人ならではの丁寧さ、正確さ、スピード感が役に立ちましたね。

はじめは言葉の壁があるし、知り合いもいないし、逃げ場がないので大変でした。だったら自分自身でそこを自分が輝ける場所にしていこうと思ったんです。待っていてもチャンスは来ない。やるべきことをやって、まずは自分が変わらなくては。それは子供の頃から両親に教えられたことでもあるし、当時の仲間たちから教わったことでもある。僕にとってはそこが調理場だったけど、すべてのことに共通すると思います。
それに、仕事では厳しいけど、プライベートでは上下関係なくフランクに付き合えるのがアメリカのいいところ。オンとオフのメリハリがはっきりしているんですね。
今、「Jean-Georges Tokyo」では自分がシェフの立場ですが、スタッフと接するときは同じようにしています。

「Jean-Georges」の料理は食べてほしいもの、味わってほしいものがはっきりしていてわかりやすい。華やかに仕上げようとすればいくらでも装飾は可能ですが、実際にはメインとの関係性がないことも多い。必要のない要素は省き、洗練されていながらもシンプルでひとつひとつの素材の味と全体のバランスを感じられる料理を心がけています。
そういう感覚が自分には合っているし、お客様にも気負わず味わって頂きたいと思っています。

いつかまた海外で自分を試してみたいですね。アメリカもいいけど、タイ、インドネシア、カンボジアなど、これからもっと発展していくアジアで料理をするのも面白いんじゃないかな。夢ですけどね!