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IL TEATRINO DA SALONE(イル テアトリーノ ダ サローネ)/東京 アイコン
東京都港区南青山7-11-5 HOUSE7115 B1F  専門ジャンル:イタリア料理

1987年広島県生まれ。
大阪の辻調理師専門学校を卒業後、大阪「ポンテベッキオ」入社。その後渡欧し、ピエモンテ州トリノの名店「リストランテ ラ バリック」での修行後、中目黒「リストランテ カッシーナ カナミッラ」のスーシェフを経て、2017年3月よりテアトリーノ5代目シェフに就任。
旗艦店「SALONE2007」などグループ各店で得た経験と、ピエモンテの食文化への造詣を活かし、テアトリーノの料理を創り出している。若手料理人コンペティション「RED U-35 2017」では448名の応募からゴールドエッグ(ファイナリスト)を受賞。
※2018年4月時点です。

CLUB RED

若き才能を発掘する料理人コンペ「RED U-35 (RYORININ’s EMERGING DREAM)」。「CLUB RED」とはそのコンペにおいて優秀な成績をおさめた料理人を指し、また、コラボメニュー開発など、様々な活動を進めていくための食のクリエイティブ・ラボでもあります。

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日本のイタリア料理界全体を盛り上げて、世界に発信していく

店名に込めたバスクへの想い

最初はレストランのパティシエになって皿盛りのきれいなデセールを作りたくて、製菓学校ではなく調理師学校に入ったんです。イタリア料理を選んだのは、外来講師として出会った「ポンテベッキオ」の山根シェフに衝撃を受けたのがきっかけです。素材を生かし旨みを引き出すために最適な調理法を施すという「最適調理」の講義はもちろんですが、授業の内容以前に、そのぶっちぎりの存在感、人を惹きつける魅力、次元の違うオーラに圧倒されました。
卒業後「ポンテベッキオ」から修業がスタートしましたが、最初の1年はサービスを担当し、言葉遣い、立ち居振る舞いをみっちり学びました。そこで得た社会人としての心得、お客様への対応の大切さが今も基本になっています。
そこで料理の基礎を学び、その後イタリアに渡ってペルージャやトリノで修業しました。伝手が無かったので、自分でミシュランを見て、30件くらいメールを送って受け入れてくれたのが、トリノの老舗「リストランテ ラ バリック」でした。日本人のスーシェフが辞める代わりに採用されたのですが、日本人の勤勉さ、調理技術の高さを証明してくれていたおかげで、ありがたいことにウェルカムな環境だったんです。

新たな人生のはじまり

イタリアで強く感じたことは、イタリア料理=郷土料理だということですね。パスタひとつとっても南は水だけ、北は卵黄で練るというように、地域によって入れるものも形も違う。
それは古くからの歴史、風土や貧富の違いからですが、それを知るのと知らないのでは、食べた時の感動が違いますね。
日本との違いは、イタリア人は自分の出身地に対する愛と誇りがある。
日本人にないとは言いませんが、「自分の故郷は何もないけど最高なんだよ」「この料理はイタリア一美味しいんだ!」と、イタリアのどこに行っても彼らにはそれを手放しで言える、揺るぎないマインドがあるんですね。そこに感銘を受けました。
料理人として人生をスタートしたのは「ポンテベッキオ」ですが、イタリア料理人として人生をスタートしたのは現地に行ってからだと思います。

皿の上で再構築するイタリアン

サローネグループでは、コースが月毎に新しいものに変わるんです。その内容は各店で考えます。毎月フルマラソンやっているような感じで、めちゃくちゃ大変ですよ。
創作料理になってはいけないので、例えばマツタケなど、高級食材であっても日本固有の食材は使用しません。器や盛りつけで日本的なエッセンスを取り入れたりはしますが、いかにイタリアでの体験や世界観を表現するかを考えて構築しています。現地での自分の感動は、その時そこでしか味わえないものだからこそ、その料理のある部分を切り取って時に強調、誇張することで鮮明にお客様に味わってもらえることを大切にしています。
例えば、今回の料理に使用したサングリアのサルサですが、北イタリアには“ヴァンブリュレ”とフランス語で呼ばれるオレンジなどのフルーツやシナモンなどのスパイスが入ったホットワインがあります。湯気と共に立ち上る香りが、凍えた体に温かく染み入ってきてホッとする、冬の飲み物です。
ところが夏にバカンスで南イタリアに行って“サングリア”を飲むと、暑さで食欲が落ちた時にもスッと入ってきて体が軽やかになる、そんな爽やかな感覚になります。同じような素材でも、温度、季節、場所によって感じ方は大きく変化しますね。
この料理は、肉にスパイスを振るのではなく、スパイスとフルーツの香りのソースを合わせることで肉の存在感を消すことなく、口に運ぶ瞬間の香りと口の中でそれぞれの味が混じり合い、爽やかな余韻を持たせることができるように仕上げました。

日本でも本物のバスク料理を届けたい

スパイスは臭みを消すという点に目が行きがちですが、それぞれのスパイスの特性を理解し、相性を見極めて使い方を変えることで素材の持ち味を増幅させ、変化を付けたり、余韻を伸ばしたりすることができます。
日本だと、スパイスを使うイタリアンは多くありませんが、現地ではもっと豊富に使っていました。僕もたくさんの種類を使います。シナモン、スターアニス、クローブス、フェンネルシード、オレガノ、ジュニパーベリー、クミン、コリアンダー、カルダモン、ブラックペッパーなどです。
肉にはクローブやジュニパーベリーを使うことが多く、年末年始に食べられるレンズ豆の煮込みやスープにはクローブを使います。
料理のポーションが小さく多皿で構成されたコースの中では、料理が出てきた瞬間の期待感、口に含んだ時の驚き、食べ終わりに残る香りの余韻を楽しんでいただくために、スパイスは重要な要素の一つです。
インパクトと良い意味での違和感を与え、一皿一皿が記憶に残ることを意識しています。
また、ハーブは生と乾燥ではそれぞれに違った良さがあって、例えばローリエ(ベイリーブス)の生はジェラートに入れ、漬け込んで1日置いて生特有のフレッシュ感のある柔らかな香りを引き出し、一方で肉の煮込みなどのベースには乾燥の方が適しています。
マジョラムやタイムは噛んだ時に弾ける香りが良いので生を使いますが、オレガノは逆にドライだけというように、そのものの香りや特性、合わせる料理で使いわけます。
まだ知らない組み合せ、発見をするために、常にトライ&エラーで固定観念にとらわれないように心掛けています。

イタリア料理の現状

日本には世界レベルのイタリアンや、国内でもトップにイタリアンはないのが現状で、それはアジアベスト50に入るイタリアンが無いことや、グルメサイト上位のほとんどをフレンチか和食が占めていることからも明らかです。一部にスターシェフはいますが、それはそのシェフが評価されているのであって、イタリア料理全体のレベルの評価にはなりません。以前は、フレンチ=高級、イタリアン=カジュアルという認識でしたが、今や値ごろ感のあるフレンチビストロが台頭しています。もともとフランスにはビストロというスタイルがあって、日本人のイメージがようやくそれに追いついたという印象です。逆にイタリアンはリストランテよりトラットリア、オステリアが多くあって、イタリアの食文化が浸透するのは良いことですが、自分がいるのはリストランテですから、イタリアンがフレンチと同じ土俵で評価されるようにならなければと思うんです。

“小さな劇場”の醍醐味

自分は料理を作るだけではなく、レストランを運営していくことに喜びや楽しさを感じます。自分が作り上げた料理を、いかにお客様に伝え、それをどう感じて受け止めてくださるか、お客様とのコミュニケーションが楽しいし、大切にしています。
美味しいレストランはたくさんある、もっと調理技術がある人もいる。それはRED U-35のコンテストの中でも感じたことです。望めば良い食材や珍しい食材が手に入る環境が整い、手に入らない物はごく一部という時代です。美味しいのは当たり前。そこに感動を与えられるか、心惹かれるものがあるか、ストーリーを作れるかが僕のやりたいことなんです。
この店は「イル テアトリーノ」の名前通り、“小さな劇場”で、非日常の空間です。
このカウンター席に座るお客様は、僕の作る料理の音や香りを観客のような気分で味わってくださっているかもしれませんが、本当は、舞台の主役はお客様で、我々は美味しい食とワインと会話で心に残る、特別な空間と時間を提供したいと考えています。
予約のお電話の時から、エントランスにいらした時から、もうワクワクやドキドキは始まっていて、食事を終えご自宅に戻ってからもお連れの方と今日の料理や思い出を楽しめる、それがリストランテの醍醐味です。
それに対価を頂くわけですから、そこに大きな感動と価値を生み出していかなければいけないんです。

新世代の料理人が目指すもの

最近は、食材に対するサステナビリティが叫ばれ、ある種のブームのようになってきています。小さな生産者にスポットが当たり、販路や価格の改善が進んでいる。良いものを作る生産者が衰退を防ぐというのは、自分の実家も販路が少ない米農家だからよくわかりますが、それを調理し提供する自分たち料理人、飲食業がその一連の流れに入っていないことにある種の疑問を感じるんです。
下積みだから寝る時間が無くても当たり前、給料がほんの少しでも当たり前、スターシェフになるためにはむしろそうあるべき、というのに美学を感じる時代じゃなくなった、だからこそ飲食業界を取り巻く労働環境に危惧を抱いています。
もちろん、一握りのスターシェフになるには相応の苦労も努力もあってのことですが、労働人口が少なくなってきている現代、飲食業界の働き手の減少は深刻です。
せっかく料理を志した人たちが、働きたいと選んでくれる業界、働き続けていける業界じゃないと衰退していってしまう。
そのためには多角的な改善策が必要で、サローネグループも柔軟に進化しています。
普通の業界からしたら牛歩かもしれないですが、5年後、10年後に少なくとも自分の会社がまず成果を出し、それをモデルケースとして飲食業界に波及させたいと考えています。
自分やスタッフが幸せを感じられなかったら、お客様に喜びや感動を感じてもらえるわけはありませんから。
日本のイタリア料理界全体を盛り上げて、世界に発信していくという夢を、みんなで実現していきたいんです。