人気パティシエがここだけの
スペシャルトーク!


パティシエの道を自分らしく
- 対照的な二人のモノづくりと生き方 -
スイーツへの情熱やスパイス使いの秘訣、
そして自分らしい働き方まで
お二人が本音で語ります。

それぞれの原点
パティシエを目指したきっかけ
―初対面のお二人ですが、まずは自己紹介と、パティシエを志した理由を教えてください。
出身は静岡で、都内の短大を卒業してから、児童養護施設や自立援助ホームで保育士として働いていたんです。いろんな事情を抱えた子どもたちと接する中で、食べることは生きることだと、「食」が持つ力の大きさを実感しました。特にお菓子はみんなが笑顔になるんですよね。
―その後はエンタメ企業の広報に? お菓子とは全然違う業種ですね。
そうなんです(笑)。広報として音楽フェスの運営などもしていました。ブッキングから設営、情報発信まで、どうやったらお客さんに快適に過ごしてもらえるかを考える仕事です。その中でもやっぱり「食」、いわゆる“フェス飯”の存在は大きくて。自分でも食で人を笑顔にする何かを生み出したいと考え、好きだったお菓子作りを本格的に学び始めました。専門学校とパティスリー修行を並行しつつ、焼き菓子を担当させてもらって。カフェの卸から始めて、2019年に自宅を店舗として開業し、今年から駅近に移転して焼き菓子とパフェのお店をオープンします。
―焼き菓子にこだわった理由は?
最初は駄菓子屋さんのように、子どもも大人も日常で気軽に食べられるものにしたくて。海外のベイクショップにも憧れていました。焼き菓子は賞味期限が長くてロスが出にくいのも大きな理由ですね。
私は小さい頃から「ケーキ屋さんになる」と決めていました。家で誕生日会をした時、母が焼いてくれたクレープをみんなでデコレーションしたのが、今思えば私の“アシェット・デセール”の原点です。小・中学生の頃は自作のお菓子を友達がすごく喜んでくれて。そういう原風景が大きかったと思います。
調理師学校卒業後はホテルやレストランでデセール担当、アシェット・デセールの先駆け的存在『ジャニス・ウォン』、バルニバービグループでメニュー開発やアシェット・デセールコースイベントも経験し、店舗を任されるようにもなりました。2025年からフリーになり、今は神楽坂の『VERTはなれ』で毎月限定のデセール、パフェコースのほか、百貨店の催事にも出店しています。
―アシェット・デセールの魅力は?
パティスリーではできない“賞味1分”のような、瞬間的で儚いデザートが作れること。そして、お客様の反応をダイレクトに感じられるライブ感がたまらないですね。

「挫折」と「成長」
乗り越える力
―この業界で一番の挫折はどんなことでしたか?
新卒で入ったホテルは4ヶ月で「辞めたい」と父に訴えました。毎日セルクルを100個以上洗って、仕込みの時間がなくなると怒られて。長時間労働、土日も休みなし。胃が痛くなる日々でした。でも父に「1年は続けなさい。1年後も同じ気持ちだったら好きにしなさい」と言われて、絶対やめてやると思いながら続けていたら、新人に教えた時に初めて先輩に「教え方が上手だね」と褒められて。任せてもらえる仕事が増え、信頼されていると感じられたことがモチベーションになり、結局4年半続けました。今では本当に感謝しています。
私は勢いでお店をオープンしたので、設備も動線も満足いかず、生産性も圧倒的に足りませんでした。毎日倒れるように床で眠ることも。家庭も回らなくなってしまい、「このままではいけない」と、時間やお金の使い方を見直しました。レシピを見直し、原価率の良い商品を揃え、でもお客様に喜んでもらえるように工夫しつつ、売上は設備投資に。焼き菓子は効率化が本当に大事なんです!
―お客様に喜んでもらうための工夫とは?
例えばクッキーでも、形や大きさ、何枚入りか、アソートかなど、見た目や価格設定も手に取りやすい工夫をしています。

スパイスを活かす
香りがもたらす新たな可能性
―お二人ともスパイスを積極的に使っていますが、こだわりやお客様の反応は?
スパイスの一番の役割は香りです。メインのフルーツを引き立てたり、意外性を出したり。あるとないとでは全然違います。例えば、金柑のコンポートにはティムットペッパーを合わせるのがお気に入りで、柑橘系の香りを重ねることで奥行きが出ますね。クミンやガラムマサラ®のアイスを合わせたマンゴーのパフェもすごく好評でした。
左:スパイシ―マンゴーパフェは特徴的なスパイス使いがパフェラバーの間で話題になった
右:お客様とフルーツやスパイスの会話をしながら盛り付けていく
印象に残る香りを演出できるのがスパイスのいいところです。スパイスはシングルでもブレンドでもいい、合わせる素材も甘くても酸っぱくてもいい、素材や味の組み合わせも自由に発想します。スパイスの背景や産地の話をすると、お客様との会話のきっかけにもなります。焼き菓子やパフェに、バニラビーンズ、シナモン、ナツメグ、クローブ、スターアニスといった一般的なスパイスの他、ティムットペッパー、馬告(マーガオ)、仁淀川山椒、メース、カンボジア産完熟ペッパーなどニッチなものも積極的に使っています。
左:静岡県三島産の「みしまマンゴー」をメインにしたパフェの裏テーマは『中国』
右:テーマに合わせて使用した、ウーシャンスパイスなどの香りをプレゼンテーションする
私もまだまだ発見が多いです。お客様も初めて知るスパイスを喜んでくれるので嬉しい。スパイスは本当に伸びしろがあります。

食材との出会い
情報収集と地元愛
―使用する食材の情報はどうやって得ていますか?
フリーランスだからこそ自分で情報を取りに行かないと。食材の展示会なども行きたいですね。希望としてはスパイスでもお酒でも生鮮でも、メーカーが積極的にシェフを招いた講習会などを催してくれたらいいなと思います。素材の勉強もしつつ、さまざまなジャンルのパティシエやシェフと交流ができるチャンスも増やしたい。催事で一緒になるパティシエ仲間とも情報交換させてもらっています。
私は異業種から飛び込んだのでパティシエのネットワークがほぼなくて。だからこそ出身地の静岡県産食材にこだわり、アンテナを張るようにしています。
今回使用したキヌアも現地の酒屋さんの紹介がきっかけで、畑に足を運んで植え付けや収穫などを体験させてもらっています。作り手の熱意に触れると刺激になります。
種まきから約4カ月、赤く色づいたら収穫し乾燥する
国産キヌアは初耳です!チュイルにしたらプチプチ食感が面白そう。
ぜひ使ってください!まだ少量生産ですが、裾野市でブランド化を進めています。
―同業者に希少な食材を教えてしまっても大丈夫?
同じ素材でも、作り手によって味やメニューは全く変わります。静岡の食材を広めるのが私のミッション。SNS発信や飲食関係者への紹介で、いい循環が生まれたら嬉しいです。

発想のヒント
インスピレーションの源泉を探る
―流行の移り変わりが早い業界で、参考にしているものは?
いろんなジャンルのレストランに食べに行きます。私はスイーツに野菜をよく使うので、料理の技法や組み合わせ、すべてが参考になります。生胡椒を使った料理にヒントを得てデザートに使ったこともあります。最近では、炭火の技法にもチャレンジしているんです。味や香りの記憶の引き出しを増やしていくことが大事ですね。
私はバーテンダーの発想がすごく参考になります。液体の合わせ方は固形のもの以上にシビアで、口に含んだ時の時間軸はより短くなります。口の中で繊細な味覚を呼び覚ます組み合わせが面白くて。他には、日本を含めた世界中のお茶を集めてくれるバイヤーさんやハウスギャバンさんのようにスパイスを体験させてくれるメーカーさんにも相談しています。

パフェブームの最前線
自分らしい表現を求めて
―お二人のパフェも人気ですが、現在のパフェブームをどう見ていますか?
無花果×アニス、とうもろこしのパフェなどが百貨店催事で好評でした。そこで知って今度はコースを食べに来てくださったりするので、パフェの影響力は大いに感じますが、価格がどんどん上がっているのが気になります。最高級なフルーツを使えば高くなるのは当然ですが、私としては、デザートの楽しさをもっと身近に感じてほしいと思っています。まずは価格を決めて、その中で旬のものや質の良いものを選び、自分の腕でさらに美味しくするのがパティシエの醍醐味です。パフェもアシェット・デセールの一つとして、その場のライブ感や非日常感も含めて楽しんでいただいています。
左:お店ではとうもろこしのパフェをブラッシュアップして提供
右:料理のような秋野菜のパフェは、コースならではの自由度の高い一品
焼き菓子だけではどんなに効率化を図っても限界があるので、もう1本事業の柱を作りたいとパフェも始めました。自分ならではのパフェを…と、焼き菓子を再構築したり、静岡県産素材に特化して、裏テーマを設けたり。アンケートでもリピーターが多く、普段食べられないものや生産者のストーリーがあるものを求める方に響いています。焼き菓子とは価格帯が違うので、その一歩を踏み出してもらうには、森井さんがおっしゃるようにプレゼンテーションも含めて価値を伝えることが大事だと感じています。
―裏テーマとはどのようなものですか?
例えば「クラウンメロンと有東木(うとぎ)わさびのパフェ」では、『お寿司』が裏テーマでした。自分でわさびをすりおろして入れていただくのですが、道明寺粉と日本酒のジュレにちょっぴり酸味をきかせてシャリのイメージ、生姜のセミドライをクリスタリゼしてガリをイメージしたパーツを忍ばせるなど、お客様にテーマを発見してもらう楽しさを提供しています。美味しさと企画、その両方を無理なく成立させるようにしています。
ひとり1本、有東木わさびを好きな量、好きなタイミングで加えてもらい、残りは持ち帰りできる
それぞれ個性がありますよね。私はメインのパフェの前に前菜をイメージしたミニパフェなども提供しています。先日のコースでお出しした「秋野菜のミニパフェ」ではゴボウのプリン、蓮根と落花生のきんぴら、里芋のアイス、さつまいもの白玉などを組み合わせました。お醤油の塩味、柚子やカルダモンのさわやかな香りで極力甘さを控え、後に続く甘いパフェとの対比で味にメリハリを出す工夫をしています。

原料高騰への対応
柔軟な工夫と取り組み
―原料高騰にはどう対応していますか?
もともとバターやカカオを多く使わない軽めのデザートが好みで、お客様にもそこを評価していただいているので、そこまで大きな影響はありませんが、チョコレートは安易に使えなくなりました。意味のある組み合わせをより考えるようになりましたね。
個人店は大量仕入れができないので厳しいですが、我慢して苦しい経営を強いられているようではどのみち続かないので、感情ではなく数字で判断するようにしています。ラインナップを少しずつ変えて対応しています。業界全体で上手く回っているお店のノウハウやプロダクトを共有できる仕組みがあったらいいなと思います。

女性パティシエの働き方
ワークライフバランスとこれから
ワークライフバランスや今後の展望について教えてください。
結婚を機にフリーになりました。家庭も大事にしつつ、仕事も続けたい。自宅兼アトリエを持つのが夢です。将来、子どもができたら長時間自分が現場に立つ仕事は難しくなるので働き方も考えなくては。ネット販売やレシピ提供など、選択肢を増やしたほうがいいねとパートナーと話し合っています。そのためには、今からいろんな可能性を広げたいので他のパティシエさんとのコラボなども積極的にやっていきたいです。
開店後1年で妊娠・出産を経験しましたが、本当に大変でした。一般的にまだまだ女性がバランスの要になり、家庭にウエイトを置かなければならない状況も多いと思うんです。私も家庭と仕事の両立は厳しくて、不定期営業になりましたが、家族やお客様に支えられました。当時は家族に対してどこか罪悪感がありました。今だからわかることなのですが、どちらかしか得られないのではなく、どちらも守るという自分の覚悟が足りなかったと思っています。娘も新しいお店を楽しみにしていて、「ママがんばってね!」と言ってくれています。
森井さんにひとつアドバイス。冷えは不妊の原因にもつながるので気をつけて!
今すぐやめたくなりました(笑)。お菓子作りの現場って本当に寒いですもんね。気をつけます!

未来へのビジョン
パティシエとして、経営者として
最後に、今後の理想や目標を教えてください。
KUNONは「食と人、地方と都市をつなぐ」を理念として掲げています。静岡の食材を使い、江東区南砂町に根差したパティスリーとして、美味しいは大前提でその先のストーリーや価値を届けたい。課題があればアイデアと工夫で乗り越え、自分も変わる柔軟さを持ちたい。そのために法人化し、従業員も雇用したので、しっかり収益を上げる仕組みを作っていかなくては。
催事でご一緒した女性のオーナーパティシエも「労働力も収益も無理なく事業を回すためのプロダクトが大事」と話していました。好きなだけでは続かないので、久野さんの経営者目線はとても参考になります。
この先5年で産学連携や地方との取り組みなどあらゆる可能性を広げ、自分が作りたいものだけでなく市場に求められるものづくりを目指します。森井さん、今度、うちのお店でイベントしませんか?
ぜひやりたいです!いつか二人でコラボしましょう!



