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東京都港区西麻布2-25-31 クオーレ西麻布 2F

「Jean-Georges Tokyo」、「The Burn」でエグゼクティブ・シェフとして活躍し、同店をオープン。世界の食文化を卓越したセンスで解釈した料理に注目が集まる。9種のヴィーガン前菜盛り合わせなど、旬の食材を昇華させたシェフの遊び心が詰まったフルコースが人気。
※2022年10月時点です。

インタビュー

米澤シェフが語る「ヴィーガン料理とスパイスの関係」

  • GABAN®  ジュニパーベリー

    ヴィーガン料理をおいしく作るコツはまず、味をしっかり付けること。かといって調味料の数を増やしたり、味を濃くすれば良いということではなく、素材の組み合わせを工夫し、バラエティを持たせることで動物性の食材とは違ったおいしさが生まれます。植物由来のスパイスは、まさにヴィーガン料理の醍醐味を楽しむために欠かせないエッセンス。世界各国で多用されるスパイスの使い方を学ぶと、ヴィーガンでなければ味わえない料理の表現が広がると思います。

ヴィーガンには「うまみ」の概念を再構築する面白さがある。あらゆる食文化に親しんだシェフほどその楽しさを引き出せると思います。

何もかも新鮮だった、NY修行時代

高校を卒業してすぐにレストランのサービスとして働き始めました。勉強があまり好きではなかったので進学は魅力的じゃなくて(笑)。母と祖母の影響で小さい頃から興味があった料理の道へ入りました。
NYヘ渡ったのは22歳の時です。何か新しいことにチャレンジしたいという一心で、貯金もたった40万円くらいしかないのに迷いもなく(笑)。住む場所も職場も決まっていませんでしたが、当時は世の中も今より懐が深いというか、緩い雰囲気があったので、とにかくここで何とかしようと思って活動しました。最初の頃は和食店で週6日アルバイト、週1の休みは都市部の有名レストランでインターンとして勉強する日々。その中でミシュランNY三つ星フレンチJean-Georges(以下JG)に出会います。インターンにも決して手加減することなくJGクオリティを求めるプロ意識の高さや、調理器具や食器、インテリアのひとつひとつまですべてが新鮮に見えたし、何より料理のすばらしさに魅了されました。
その後、正式にJGブランドのカジュアルダイニングに雇ってもらえることになりました。仕事が少しは板についてきた3年目に、料理人としてもっと高いステージを目指したいという気持ちが高まり、「1年後にスーシェフになる。なれなかったら店を辞める」という目標を決めたんです。それからは本当に、日々がむしゃらになって目標を追い続けた記憶ばかりが残っています。1年後にJGのスーシェフに就任した時は、嬉しさと同時に責任の重さも感じました。実際に一番大変だったのは、スーシェフ就任後だったかもしれません。
「外国で働く」ことの大変さは、誰でも想像できるでしょう。言葉の壁はもちろん、文化、習慣の違いなど、ハードルは山ほどあります。もちろん楽しいことばかりではありませんでしたが、不安な時ほど自分が培ってきた技術や経験に救われてきました。
いわゆる上司と言われる立場になっても決して慢心せず、スタッフ以上に自分が働く姿を見せると、まわりも自然と良い方向に変わってくる。そうしてお互いに切磋琢磨することで、評価されるレストランが育つということもNYで学びましたね。

NY仕込みのヴィーガン料理を日本でも

帰国後はいくつかのレストランでシェフとして活動し、NYで培った料理や、魅力的なレストラン空間を日本で表現することに集中しました。帰国後6年ほど経ち、「Jean-Georges Tokyo」立ち上げ時にエグゼクティブ・シェフのオファーをもらった時は本当に嬉しかったですね。もちろんプレッシャーもありましたが、「君が日本人だからではない。君にだったら任せられると思ったからだ」という言葉に大きく心を動かされました。
JGではフレンチをベースに、さまざまな人種が集うNY発のレストランならではのボーダレスなエッセンスを加えた料理を提供していたので、スパイスの使い方は工夫しましたね。よく使うスパイスはクミン、コリアンダーなど、中東やアジアでお馴染みのスパイス。ヨーロッパにも広く流通しているからか、意外に世界中どこの料理とも相性が良く、且つ新鮮なアクセントを加えてくれる頼もしい存在ですね。六本木という立地から、外国人のお客さまも多くお迎えする中で、世界各国の食材やスパイスを使ったプレゼンテーションができたのはとても楽しかったです。
また、帰国してからは日本の食材についてさらに興味を持つようになりました。海や山に恵まれた日本は世界で類を見ない新鮮で多彩な食材に恵まれた国だということを再認識したんですね。国産の肉や野菜の味わいを、洗練された調理でシンプルに味わえるレストランを作りたいという気持ちから、2018年には自分のコンセプトでプロデュースしたグリルレストラン「The Burn」をオープンしました。
「The Burn」は肉料理が人気ですが、メニューのひとつとして日本の野菜を使ったヴィーガン料理を提案したところ、とても好評だったんです。NY時代にヴィーガンもしっかり修行したおかげで、引き出しが備わっていたことは良かったですね。

スパイスが左右するヴィーガン料理の印象

ヴィーガン料理は、肉や魚を使う料理と基本的な調味が違います。動物性のうまみを加えないので、正直なところ味が決まりにくい。でも使う食材の個性を知り、適切に調理をしてあげると独特なおいしさが引き出されます。例えばヴィーガンによく使われる大豆ミートは、料理によって乾燥豆特有の香りを生かす場合もあるし、逆に豆臭さを抜いて調味料をしっかり染み込ませたほうが良い場合もあります。
また、スパイスが欠かせないパートナーでもありますね。仕上がりにコクやパンチを加えたり、香りの相乗効果で満足感を演出したり。通常の料理よりちょっと多めに使ってあげるといいですよ。おいしく仕上がったヴィーガン料理は、動物性のうまみを楽しむ料理とは異なる繊細な味わいがあると思います。
NYには世界中の料理が集まると言われていますが、それぞれのスパイスの使い方を見ていると意外に自由だな、と気付かされます。日本人はスパイスの使い方に決まったガイドのようなものを求める傾向がありますが、決まりは特になくて良いと思いますね。どこかで食べた料理を再現したいと思ったら、まずは自分の舌の記憶を頼りに自由に作ることが多いですし、そのほうがオリジナリティの高いものができることが多いかもしれません。

日本で感じた、持続可能な食のかたちとは

ヴィーガン料理が将来的な食糧の安定供給に貢献するか?と聞かれることがありますが、答えは「どちらでもない」と思います。仮に肉のかわりに大豆ミートを食べることがエコだとして、大豆畑を作るために世界中で森林伐採をしまくったらそれはそれでバランスが悪いですよね。大切なのは、必要なものを適切に流通させ、消費するということではないでしょうか。ただ、日本でも漁獲量が減ったり食肉の安全性に不安を抱かざるを得ない状況がある中で、野菜や米はまだ安定して作っていける可能性があると思います。いずれにせよひとつの食材に偏らず、今採れるものを工夫して食べ、将来へも繋げていくというスタイルは自然だと思いますね。日本は四季折々の良質な食材に恵まれている国ではあるものの、国土が小さく供給量は決して多くはないと思います。そんな中で、国産の食材を無駄にせず丁寧に調理し、価値あるものとして提供することも、シェフの大きな役割ではないでしょうか。
また、ヴィーガン料理と聞くと「宗教的」とか「おいしくない」というイメージを持つ方もいるかもしれませんが、さまざまな食文化の中で「選択肢」のひとつだと思っています。「最近肉ばっかり食べていたから今日は野菜メインにしよう」とか「新鮮な野菜がいろいろあるから、今日はヴィーガンでまとめよう」など、自分の体や好みと相談して選び、おいしく食べることで、食がより多彩になるのではないでしょうか。
ちなみに2019年にはレシピ本も出版しました。こうしてヴィーガン料理へのアプローチがプロにも家庭にも伝わることで、みなさんの食生活がより豊かになればいいなと思います。

自分の世界を確立したシェフが、唯一無二の価値を提供できると思います

僕がJGで見込んでもらったきっかけは、実はアスパラガスの皮むきをしている時でした。日本ではイタリアンで修行していて、春には毎日仕込みで大量の皮むきをするんです。とにかく数をこなしたし、丁寧に、正確に、すばやく皮をむくことが僕にとっては当たり前になっていましたが、外国人の中には大雑把な人もいますからね(笑)。日本で鍛えた技術が、大勢の仲間がいる中で僕の特技として役に立ちました。
今は日本でも職場環境、労働条件の改善が進み、手仕事がオートメーション化される中で仕込みの時間や手間ひまのかけかたも変化しているかもしれません。ただ、ひたすら経験、努力をしなければ身につかない技術があることも事実ですし、若いうちにしっかり基礎を磨いておいたことが今でも自分を助けてくれています。
コロナ禍と言われてずいぶん経ち、レストランに求められることも日々変化する中、お客さまに愛される店はやはり「唯一無二の価値を提供しているかどうか」が大きいと思います。おいしい料理を作る店はたくさんあるけれど、その中で「ここへ行こう」と選ばれることはとてもハードルが高いもの。そんな中でシェフはもちろん、店全体として世界観が確立しているレストランはとても魅力的だと思いますね。
また、そのためには若いうちから楽しいことも辛いこともたくさん経験することが大切とも感じます。私は若さも手伝ってNYで修行する道を選びましたが、大変なことがいっぱいあっても無駄なことは一つもなく、すばらしい経験ができたと、当時の環境に感謝しています。
現在は、No Code運営のほかにも、奥野義幸シェフと共同でオンラインサロンを立ち上げ「食」に興味がある人たちとさまざまな取り組みを行っています。例えば、生産者のもとに足を運び質の良い食材と卸業者を繋いだり、プロデュースやイベント、メニュー開発を手掛けたり。
肩書を「シェフ+(プラス)」としたのは料理をするだけでなく、「食」に関わるすべてのコトをアップデートして「シェフ以上」の活動がしたいと思ったからなんです。食から学んだ多くの経験を生かし、私のフィルターを通して世の中に還元することで、より良い未来を創造していけるように。