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リストランテ アクアパッツァアイコン
東京都港区南青山2-27-18パサージュ青山2F 

1990年オープン。オーナーシェフ日髙良実さんが提案する、日本の旬を生かしたイタリア料理は、数あるレストランの中でも唯一無二。東京を代表する名店として、長く愛され続けている。
※2019年4月時点です。

川合シェフが語る「色と香り」のスパイス

料理を「黄色く色付ける」という点では同じ効果をもたらすスパイスですが、実はまったく違った性質を持っています。その使い方や香りの違いをシェフに伺いました。

  • ターメリックパウダー

    GABAN® ターメリックパウダー

    カレーのイメージが強いターメリックですが、実は香りはそれほど強くないんです。僕は自然な野性味をプラスしたり、色付けの目的で使うことが多いですね。今回はクスクスに加えて、エキゾチックな風味と色合いに仕上げました。

  • サフランホール

    GABAN® サフランホール

    サフランの魅力は、黄金色の鮮やかな彩りももちろんですが、立ち上る華やかな香りとほろ苦い風味も持ち味です。ほんの少量で、料理の味にぐっと深みが出ます。素材の味を邪魔せず、舌の奥でほのかに感じる、ささやかな存在感がいいですね。

バスク料理のすべてに魅了されました。

スターシェフに魅せられ、料理の道へ

もともと料理人という仕事に興味を持ったのは小学生の頃です。当時流行っていた料理番組でいわゆるスターシェフが次々と登場し、華々しく活躍している様子にとても憧れましたね。子ども心に、「いつか自分も料理を本格的に学び、仕事にしたい」という気持ちを抱いていたことを、今でも覚えています。

でも、学生時代は堅実にというか(笑)、家業を継ぐために建築を勉強していました。料理と同じで何かを作ることが好きでしたし、楽しかったですよ。でもいざ卒業し、自分は何を一生の仕事にしたいかと考えると、やはり料理への憧れをあきらめられなくて。小学生の頃からの夢を叶えるべく、全く別の世界へ進みました。大胆な方向転換のように見えるかもしれませんが、自分にとっては自然な流れだったように思います。

イタリア料理との出会

ご覧の通り、今は「アクアパッツァ」でイタリア料理を専門にしていますが、かけだしの頃は和食など、いくつかのお店で修行を重ねました。日本の食材、特に魚介に興味があったんです。魚をさばくのはここの誰よりも得意な自信がありますよ(笑)。
そんな中でイタリア料理に夢中になったきっかけは、やはり日髙さんとの出会いが大きいと思っています。日髙さんは、ずっと憧れの存在でした。僕が子どもの頃からイタリア料理を日本に紹介し続けている草分け的な存在ですし、「アクアパッツァ」で料理人をさがしていると聞いた時は、この上ないチャンスだと思い、手を挙げました。

最初は、前菜場から始まりました。イタリア料理の前菜って、実は細かい決まりはなく、食材と調理法の幅がとても広いんですよ。固定観念にとらわれず、自分の料理の腕を試して磨くには、ぴったりの持ち場でした。一方、前菜は全コースの印象を決める最初の皿ですから、もちろん「アクアパッツァ」にかかる期待を裏切らないクオリティであることも絶対条件です。そこでイタリア料理の基本と奥深さを厳しく学ぶことにもなりましたね。料理人としての基礎はふまえながら、若手の発想や挑戦したい気持ちを受け入れてくれる環境は、日髙さんが育てた「アクアパッツァ」ならではの懐の深さだと思っています。

1年ほど前菜場を持っているうちに、日髙さんと一緒に撮影やイベントなど、外の現場を担当する仕事が増え始めました。この頃レストランの厨房から出て、さまざまな職種の方と料理を介し仕事をしたことがきっかけで、イタリア料理人としてもっと成長したいという思いが強くなりました。目の前にある仕事を仕上げることに集中する日々から一歩前進し、独自の視点や専門性を磨きたいと。
そこで改めて「イタリア料理」に向き合うことになりました。

今、日本のイタリア料理がおもしろい理由

昔の文献を読んだり、先人から話を聞いた印象では、古典的なイタリア料理はよくも悪くも「おおらか」な部分があるように思います。たとえば、肉や魚は下処理をあまりせず、オイルや塩、酢などを使って大雑把に炒め煮する、とか。もちろんそういった大衆的な料理も地元ならではの知恵や伝統があり、おいしいです。一方、現地の高級レストランの料理はここ10年ほどでみるみる進化していて、とても勉強になりますね。海に囲まれ、南北に長く気候の変化に富んだ土地で、食材の種類が豊富ですから、料理人には楽しい国だと思います。

日本も、土地柄と食材の関係については同じことが言えますよね。日本でイタリア料理を作るというのは理にかなっていると思いますし、さらに四季があるのも、日本のイタリア料理の質を底上げしている一因だと思います。
時々、仕事やプライベートで地方へ行くことがありますが、行く先々で僕が知らない食材や、食べ方に出会うととてもわくわくするし、創造力を刺激されます。港町の魚屋さんや、個人で経営しているような八百屋さんを見つけると絶対お邪魔しますし、根掘り葉掘り話し込んでしまいます(笑)。

川合シェフが思う「料理の鉄則」

今は立場上、厨房ではどこかのポジションを専門で担当するのではなく、若い子に教えたり、全体を見ながら新しいコースの仕立てを考えたりと、マネージャー的な役割が多い中、いつも若手に伝えていることがあります。まず「料理に気持ちを込める」こと。
気持ちってあいまいなアドバイスですが、いくら技術を磨いても「もっとおいしく作りたい」とか「お客さまに喜んでもらいたい」といったサービス精神がないと、料理の味や盛り付けの細かいところが雑になるし、それがお客さまにも伝わります。まったく同じレシピで作っても、無意識に何となく作るのと、感情を込めて仕上げるのでは、味に大きな差が出るものですね。

「アクアパッツァ」に限らず、これから成長していく若い料理人には、とにかく気持ちを込めて料理に向き合ってほしい。もちろん技術は大切ですが、真心をこめて日々仕事をしていれば、自然に技術はついてくるものだと教えています。

川合シェフが思う「料理の鉄則」

「アクアパッツァ」で料理を作り11年になりますが、経験を重ねるほど、日本の食材で作るイタリア料理が楽しいと感じます。この先も、やはり「旬の素材にシンプルに向き合う」姿勢をつらぬく料理人でいたいですね。

スパイスも同じことが言えますね。イタリアでは複数を組み合わせて味を完成させるというより、ひとつのスパイスの持ち味を素直に引き出す使い方が上手なんです。例えば、肉や魚のソテーには、ローズマリーやマジョラムでフレッシュな香りを添えたり、ソースやブロードには、ベイリーブス(ローリエ)やサフランで個性的なアクセントを加えたり。どれも、スパイスに対する素直な解釈があらわれた手法だと思っています。

料理は、まず質のいい食材ありきですから、常にひと皿ごとに、素材の個性を感じるような料理を作り続けたい。将来は日本全国から集めたとっておきの食材で、シンプルを極めた料理を出せる店を出すのも楽しそうですね。ワインも好きだから、ペアリングの提案もお任せ頂けるような。

一方、ここでまだまだやりたいこともあるんです。僕のイタリア料理の基礎体力はここで培われましたし、大勢のスタッフと一緒に働いて学ぶことはとても多い。これから料理の世界を志す若手に、いろんな可能性を見せてあげられる総料理長であり続けることが、まずは今、僕の役割だと思っています。